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SNE学会「会報」第9号(2001.3.)
「21世紀の特殊教育の在り方について(最終報告)」を読んで−「特別支援教育」と「特別なニーズ教育」の相違を中心に− 渡部昭男(鳥取大学)
  

「第1章・今後の特殊教育の在り方についての基本的な考え方」
 

 報告に「一人一人のニーズに応じた特別な支援の在り方について」の副題が明記されたことは画期的なことです。「特殊教育」から「特別なニーズ教育」へ「転換した」とは言えないまでも、「接近した」ことは事実でしょう。副題を具体化する上で残された検討課題はあるものの、転換への第一歩を踏み出した点は適切に評価すべきでしょう。
 
 課題は何でしょう。最終報告は「特殊教育」と「特別支援教育」を併用しています。異なる概念を併用した為に矛盾が見られます。すなわち、文部科学省において「特殊教育課」を「特別支援教育課」に改組したとは言え、最終報告では従来の盲・聾・養護学校及び特殊学級での教育を「特殊教育」、通常学級に在籍する者への特別な支援を「特別支援教育」と呼び分けている節があります。
また、仮に全体を「特別支援教育」と呼称しても、従前の「特殊教育」の延長にLD児等への通級指導や巡回指導を付加したものを言うのでしょうか。そこに留まると、一歩前進とは言え「特別支援教育」という呼び分けや対象の拡張はあっても、「障害の種類・程度に応じた特殊な場での対応」から「ニーズに応じた教育」への原理的転換はないことになります。副題を実質化して、原理的転換へと推し進めていくことが21世紀の課題です。
 
 なお、原理的転換の視点に立てば、「障害」を前提とした「特別支援教育」に留めず、学習困難、いじめ・不登校、外国人子弟などの「特別な教育的ニーズ」を有する子ども・青年へのケアも含んだ「特別なニーズ教育」として展望することが肝要でしょう(例えば、1993年改正の義務標準法は、「特別の指導」という概念を導入し、通級指導教室・適応指導教室・日本語教室での指導を一体的に位置づけています)。SNE学会の基本方向も後者にあると考えます。
 


「第2章・就学指導の在り方の改善について」
 

 教育・福祉・医療・労働等が一体となった相談支援体制の構築や保護者等が意見表明する機会の保障などは、かねてよりの懸案でもありました。乳幼児期から学校卒業後まで一貫した相談支援体制の整備、障害児の程度に関する基準及び就学手続きの見直し等に関しては、遅ればせとは言え、これまでになく踏み込んだ内容となっています。
 
 問題は、通常学級ー75条学級ー盲・聾・養護学校という三者択一制の就学システム自体を検討できていないことでしょう。三者択一制の下で通常学級以外に在籍する者への教育が、従来の「特殊教育」の枠組みでした。必要な教育諸サービスが全て保障される「特別なニーズ教育」にあっては、複数の教育機関にまたがる重複在籍や並行利用の道が開かれなければなりません。私見ですが、三者択一制は1970年代以降の交流教育、訪問教育、通級指導などの導入によって次第に揺らいできています。当面は、居住地校交流の推進や通級指導制の義務教育段階前後への拡充が、具体的な検討課題となるでしょう。
 
 また、基準や手続き過程が見直されるとは言え、教育委員会の学校指定(行政処分)権限を前提とした「就学指導」と、当事者の権利保障を前提とした「相談支援」との関係がなお整合的ではありません。一人一人のニーズを把握してケアの在り方を示す「教育相談支援委員会」等に「就学指導委員会」を転換することは、本質に関わる事項でしょう。
 


「第3章・特別な教育的支援を必要とする児童生徒への対応について」
 

 LD児等への対応として、通級指導に留まらず、巡回指導、ティームティーチング(TT)、非常勤講師等の活用に触れた点は、通常学級における「特別支援教育」の整備に踏み出す意味で大きな刺激となるでしょう。市町村教育委員会や通常学校の管理職・教職員が、TTや少人数授業、非常勤講師等の活用などをLD児等への対応と結びつけて考える契機となってくれることを期待します。
 
 あと一歩踏み込んで欲しかったのは、障害児が在籍する通常学級の少人数学級編制です。世界には、障害児の統合クラスを優先的に少人数編制にする国があります。欧米の教育の研究は審議過程で行われているのですが、残念ながら、ここへの着目はありませんでした。国として対応できれば最善でしょうが、現在は自治体の判断によって国の標準である40人を下回る少人数学級編制を採ることができるようになってもいます。
 
 また、地域の特殊教育のセンターとしての盲・聾・養護学校の機能を充実する方向に異存はありません。問題は、機能の充実には人も金もかかるということではないでしょうか。これは、財務当局との緊張関係の下で、文部科学省や協力者会議の委員自身が最もよく承知しているジレンマかもしれません。だからこそ、LD児等に限定するのではなく、学習困難やいじめ・不登校等にも対応しうる新しい教育サービスの構築として、積極的に世論を味方にする必要はなかったのかとも思われます。
 


「第4章・特殊教育の改善・充実のための条件整備について」
 

  特殊教育教諭免許状の保有率の向上は歓迎すべきことですが、「専門家に委ねれば良い」という意識を広げるとすれば、インテグレーションやインクルージョンには向かっていないことになります。SNE学会が「特別なニーズ教育とインテグレーション」という長い学会名称を持って設立された理由はここにあるように思います。「特別なニーズ教育」の構築過程は、将来における「特別なニーズ教育」の発展的解消をも展望したものでなければならないというのが、私の持論です。
 
 通常学級での「特別支援教育」の構築の為に、養護学校教諭免許状2種程度の内容を学部段階における全ての教員養成カリキュラムに含めてはいかがでしょう。すなわち、通常学級の教員全てが「特別支援教育」が担えるようにするのです。専門性は、一部の者に占有されるのではなく、多くの人に還元・共有されるべきものです。スウェーデンにおいて、特殊教育教員養成の基本カリキュラムを通常の教師養成に組み込み、代わって通常教師に助言・支援する特別教育家の養成に転換した経緯から学ぶことは少なくないでしょう。その上で、障害種別の免許状や大学院レベルの専修免許状の一層の高度化を図る必要はなお継続すると考えています。
 
 他にも述べたいことは多々ありますが、紙数が尽きました。最終報告に関して、会員の皆様と色々と意見交換をしたいと望んでいます。拙文が、筑波大学中間集会(課題研究)や『SNEジャーナル』第7巻特集での活発な意見交換への火付け役となれば幸いです。
 
付録:「特別支援教育」に関する学校教育法関連の主要改正私案(渡部昭男) *当面の「特別支援教育」の立ち上げに関わって、アンダーラインが改正箇所の私案です。主要な視点のみを示しました。なお、就学手続き関連の改正は、紙数上ここではふれていません。詳しくは、「教育的インテグレーションをすすめる障害児教育制度試案」『障害児教育とインテグレーション』(渡部・藤本、1986年、労働旬報社)をご覧下さい。
 


学校教育法
 

第六章 盲学校、聾学校及び養護学校
(なお、特別学校と一括する案も検討されてよい)
第71条 盲学校、聾学校又は養護学校は、それぞれ盲学校、聾学校又は養護学校における特別の教育課程を必要とする者に対して、幼稚園、小学校、中学校又は高等学校に準ずる教育を施し、あわせて特別な教育的支援を行うことを目的とする。
A前項に掲げる学校は、障害や疾病等により通学することが困難な幼児、児童及び生徒に対して、訪問学級を設け、教育を行うことができる。
第75条→小学校等の各章に入れ込む。
 
第二章 小学校
第23条 前条の規定によつて、保護者が就学させなければならない子女(以下学齢児童と称する。)で、(削除)やむを得ない事由のため、就学困難と認められる者の保護者に対しては、保護者の申し立てを受けて、前条第一項に規定する義務を猶予(免除を削除)することができる。
第24条 小学校には、特別の教育課程を必要とする児童のために、特別学級を置くことができる。
A小学校は、疾病等により通学することが困難な児童に対して、特別学級を設け、又は教員を派遣して、教育を行うことができる。
第28条 小学校には、校長、教頭、教諭、学習支援教諭、養護教諭及び事務職員を置かなければならない。 F学習支援教諭は、児童の学習支援をつかさどる。
*中学校、高等学校、中等教育学校及び幼稚園に関しては、準用規定を置く。
 


学校教育法施行規則
 

第1条 学校には、その学校の目的を実現するために必要な校地、校舎、校具、運動場、図書館又は図書室、学習支援室、保健室その他の設備を設けなければならない。
第六章 盲学校、聾学校及び養護学校
*特別学級及び通級指導に関する第73条の17〜22は、第2章小学校の章へ移動し、中学校以下は準用規定を設ける。
 



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